novelber 15.七五三 四月には地元を離れ、就職する。今までとはまったく違うであろう新しい生活への期待に、胸が膨らむ。けれど、不安もあった。大学を卒業するまでの二十二年間、地元を離れたことはなかった。一人暮らしも初めてだ。 ずっと実家にいたけど、大学に進学してか... 2020.07.15 novelber小説
novelber 14.ポケット いびつな丸で切り取られた空は真っ黒だった。灰色ですらないので、つまり夜ということだ。 どうやら穴の中にいるらしく、その縁は簡単には届きそうにない上方にあった。穴の内側は古びたコンクリートで、所々はげ落ちて土が露出している。 星も月も望め... 2020.07.14 novelber小説
novelber 13.あの病院 なんとなく避ける道、というものがある。その道を通れば職場と自宅を結ぶ最短距離となるが、避けて通ってもさほどの遠回りにはならない。なので、よほど急いでいなければ、その道は選ばなかった。 車が行き交い、歩道の幅も十分にある、三区の中でも大きな... 2020.07.13 novelber小説
novelber 12.並行 先に月に、後に火星に。人類は地球外の地に都市を造り、一般人までもが宇宙へ進出した。 地球外都市として歴史が長いのは月面だが、技術的にも意識的にも先を行くのは火星だ。 火星を拠点として、火星生まれの、火星人とも言える人類は、地球より更に遠... 2020.07.12 novelber小説
novelber 11.時雨 気象班の予報では、今日は時々雨。雨量はさほどでもないということだが、雨が降ると足下が悪くなるので、こんな日に地上に出るのは憂鬱だ。管理職となった今、地上に出ることはほとんどなくなったが。 「お疲れさま。雨が降ったそうだね」 「藤原さん。お疲... 2020.07.11 novelber小説