SF

短編

忘れ得ぬもの、まだ見ぬ世界

 その感触を、生涯忘れることはないだろう。けれど――。 「火星行きが目前で、ナーバスになってるだけじゃない?」  少し呆れた顔の同僚達に見送られ、地球行きの船に乗る。きっと仲間の言う通りだ。月生まれなのに、地球の青さに懐かしさを感じるの...
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見えざる手

 朝日が眩しい海岸を歩いていた時に、出会った。足がなくなった大きなクラゲが打ち上げられていると思ったが、違った。  迷子の宇宙人だった。  故郷へ帰るロケット作りを手伝う羽目になったのだが、色々な研究機関やマスコミ、動画配信者等に追いかけ...
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あかときの8分19秒

 昼に白く輝き、夜は月を通して存在を知らしめる、人類最寄りの恒星。  目を細めても眩しすぎるその輝きは、8分19秒前のもの。今見えている太陽は、既に過去なのだ。  見えていても、それだけかの星は遠い。  有志が集まって打ち上げた太陽探査...
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種撒く人

「私の記憶に間違いなければ蒼藤の月一日。晴れ後雷雨。気持ちよく寝ていたら雷に起こされ、雨に見舞われる。昼寝を邪魔され不愉快だが、全身が洗えてすっきりできたので良しとする」  話しかけていた相手である黒く小さな種を、薄緑色の瓶に入れてしっか...
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もし目が覚めたら、夢の話をしよう

「私達はもう長くないけど、あなたは違う。あなたは私達では辿り着けない、遠い遠い未来へ行ける。だから、そこで伝えて。あなたを目覚めさせた存在に、私達のことを。この世界で起きたことを。私達が夢見た未来を」  それが、この目で見た最後の光景でし...
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