短編

小説

春に溶ける

 今でも悔いていることがある。懐に忍ばせている小さな小さな角笛を手にする度、後悔が生まれ、心の中に降り積もる。溶けて消えはしない。  謝りたくとも謝れない、返したくとも返せない。角笛の持ち主は、一つの地に長く留まることはない人だから。 ...
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聖女の真実 騎士の約束 後編

「お願い、イグネス。助けて」  彼女は泣いてすがったが、イグネスにはどうすることもできなかった。  この村で生まれた魔術師たちは、幼い頃から自分たちの役割を言い聞かされて育つ。だから、自分にその役割が回ってきたとしても最後には仕方ないと諦...
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聖女の真実 騎士の約束 前編

 骨が軋み、皮膚がひきつる。針で刺されるような痛みが全身を苛む。血管が蛇のようにのたうち、その中を嵐のように血が巡る。嵐に耐えきれず、何カ所も内側から破れていた。  飛んできた石の礫が顔に当たった。  嵐は彼の内側だけにあるのではない。周...
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きみの健やかなる未来を願い、描く

 定規で引いたようにまっすぐな道にはゴミ一つ落ちていない。ゴミが落ちていても、すぐさま清掃ロボットが現れてゴミを片付け、捨てた人物を特定して当局に通報する。  街路樹の葉っぱすらほとんど落ちていない。きれいに整備された公園には指定された植...
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透明な恋のはじめかた 後編

「もう二週間経つのに、全然戻る気配がないね」  帰り道、明が半分諦め、半分苦笑いする声で言った。彼女も帰宅部だった。放課後も教室でだべることの多い大倉と根本を置いて、透は明と一緒に先に帰ることが増えた。 「透明なのにも慣れちゃったな」 「...
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