12.並行

 先に月に、後に火星に。人類は地球外の地に都市を造り、一般人までもが宇宙へ進出した。
 地球外都市として歴史が長いのは月面だが、技術的にも意識的にも先を行くのは火星だ。
 火星を拠点として、火星生まれの、火星人とも言える人類は、地球より更に遠い星へと手を足を延ばしている。カイパーベルトを越えて、その先へ。火星も、月も、人類の故郷たる地球を顧みることなく、ここよりも遠い場所へ。
 月面都市の方が歴史が長いといっても、その差は十数年。建設・開発はほとんど並行して行われたといっていい。それでも、月面の人間は、火星に住む人々ほど、遠い宇宙へ意識を向けてはいない。
 それはひとえに、地球が肉眼で見えるからだろう。今では塵に覆い尽くされた灰色の星。交信さえも途絶え、祖先を共にする人々がどうなってしまったのか分からない。
 火星の人々のように、いつまでもこだわっていないで宇宙の果てに目を向ければいいのかもしれない。地球しか知らなかった頃、人類はいつでも宇宙を見上げていたのだから。
 けれど、目の前にある灰色の惑星は、いつか美しい青い星に戻るはずだ。きっとそこには、生き延びた人類の姿も。
 地球から宇宙を見上げたとき、夜空で一番明るく輝く月に誰もいないと知ったらがっかりするに違いない。
 ずっと待っていた。そう言うために、終わりかけの都市で、地球を見守っている。 

〈了〉

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