11.時雨

 気象班の予報では、今日は時々雨。雨量はさほどでもないということだが、雨が降ると足下が悪くなるので、こんな日に地上に出るのは憂鬱だ。管理職となった今、地上に出ることはほとんどなくなったが。
「お疲れさま。雨が降ったそうだね」
「藤原さん。お疲れさまです」
 不運にも、今日のメンテナンス当番だったのは堀川だ。
「雨といっても、時雨というやつですね。降ってもそれほど降らなかったから、助かりました」
 デスクに戻った堀川は、疲れた様子も見せない。新人の面倒を見ながらだから、疲れないはずはないだろうに。
「むしろ、良かったですよ」
「良かった? 雨が降って?」
「江田君、初めて雨を見たって喜んでましたから」
 江田は、右も左も分からない空調局に放り込まれた、中央から来た幹部候補生だ。いったい何故こんなところへ来たのか知らないが、本人も不本意な異動であったのは見るからに明らかで、地上に出るのも嫌そうだ。
「それは……良かった、と言っていいのかな」
「子供みたいに喜んでましたよ」
「……まあ、いいか。嫌なことばかりじゃ、江田も辛いだろう」
 堀川にとっても、良かったのかもしれない。ほほえましいものを見たような顔をしていたから。

〈了〉

コメント

タイトルとURLをコピーしました