異世界ファンタジー

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帰還

旅する目的は人それぞれ。商売だったり、護衛だったり、逃亡だったり、魔物退治だったり。  単なる雑貨屋の主に旅人たる彼らは、いざという時はよろしく、と雑貨を買うついでに頼んで、行く。  客足が途絶えた昼下がり、店内で小さな足音がした。重く疲れ...
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炎の柱

「まさか本当に来るとはね」 「今夜だろう、季節送り。見に来てもいいと言ったじゃないか」  魔女は呆れ顔で肩をすくめた。 「大人しくしているんだよ。――まったく、物好きな王子様だ」  森の奥、不思議と開けた場所で、魔女が杖を降ると小さな炎が地...
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瓶詰めの夜空

幼い頃、意気揚々と遊びに行って、泣いて帰ってくることが時々あった。 「お空を見てごらん」  いつまでも泣いている私に師匠が優しくささやく。満天の星が涙の向こうで輝いていた。 「これを持って。さあ、呪(まじな)いの時間だ」  幼い両手で持たさ...
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書き初め

年が改まって最初の市は、毎年大賑わいだ。  今年一年の幸せを求めて、呪まじない師の店にも多くの客が訪れる。呪い師がその年初めて書く護符は、特に効果があるとされるのだ。  ゆえに人気の呪い師の店先には、書き初めの護符をもらおうと前の晩から待ち...
小説

森のほとりの怒れる人

〈マの森〉に一人で入るな、と大人達が口を酸っぱくして言っているのに、ポラはいつもお構いなしだ。今日は朝から姿を見かけないなと気付いた頃に、全身草まみれで現れる。 「キュラ、お土産だよ」  満面の笑みで、小さく綺麗な花束や、珍しい木の実を差し...