瓶詰めの夜空

 幼い頃、意気揚々と遊びに行って、泣いて帰ってくることが時々あった。
「お空を見てごらん」
 いつまでも泣いている私に師匠が優しくささやく。満天の星が涙の向こうで輝いていた。
「これを持って。さあ、呪(まじな)いの時間だ」
 幼い両手で持たされた瓶の中から、うっとりするような甘い香りが漂う。
「こっちの水は甘いぞ」
 呪いの言葉を空に向かって呟くと、いくつもの星が瞬き、空から降ってきて、瓶の中に飛び込んでいく。
 空には星とよく似た不思議な生き物がいて、それらは甘い香りを好むのだ。師匠が調合した香りは、彼らをよく惹き付けた。
 瓶の中の無数の瞬きは、涙を吹き飛ばしてくれた。

 泣きたくなる夜、昔を思い出して、今でも瓶の中に夜空を作る。

※300字
※毎月300字小説企画参加作品、第2回お題「甘い」

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