「まさか本当に来るとはね」
「今夜だろう、季節送り。見に来てもいいと言ったじゃないか」
魔女は呆れ顔で肩をすくめた。
「大人しくしているんだよ。――まったく、物好きな王子様だ」
森の奥、不思議と開けた場所で、魔女が杖を降ると小さな炎が地面に生まれた。炎は円を描き、夜空に向かって延びていく。小さな火の粉が雪のように舞っていた。
季節の変わり目に魔女がひっそりと行う儀式が、季節送りだ。今宵は冬の精霊を見送るのだ。
凡人にすぎない彼の目には、彼女のように精霊は見えない。二人の世界は色々と違いすぎるのだ。
それでも、満天の星に吸い込まれていく炎は幻想的で、並んでそれを見上げているこの時間は、何より特別だった。
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※毎月300字小説企画参加作品、第3回お題「おくる」
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