08.天狼星

 それはもうこっぴどく怒られた。
 割と温厚な歳の離れたあの従兄弟が、あんなに怒ったのを見たのは初めてだ。両親にだってあんなに怒られたことはない。
 ただ、それだけのことをしてしまったのだと、わかっていた。もちろん、反省もした。死ぬほどした。二度と地上には行きませんと従兄弟に誓ったし、友人を巻き込まないと約束もした。
「……大城さんの気持ちも、分かってやれよ」
 ソファで隣に座っている友人に肩を叩かれる。休みの日なのに先輩職員の家に呼び出された友人は、一緒に今までずっと怒られていた。にもかかわらず、慰めるような口調だった。
「分かってる。分かってるよ……」
 従兄弟がなぜあれほど怒ったのか、分かっている。理由を知っている。
 従兄弟はたいそう怒っていたが、同時に呆れ、嘆きもしただろう。なぜ地上に出てはいけないのか、身内にまったく伝わっていなかったのだから。
「蒼平兄さんには悪いことをしたな」
「反省したのは伝わってるさ」
「うん……」
 想像以上に寒かった地上。墨で塗り潰したように真っ黒な世界。月も星も何も見えない。それでも、シリウスを見た気分になった。
 けれど、あの時の忘れがたい気持ちに蓋をする。あれは、本当は禁じられた、味わってはならないものだから。

〈了〉

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