短編

小説

夜間飛行

地面があっという間に遠ざかる。耳元で風がうなり、前髪が吹き飛ばされそうだ。 「もっとゆっくりの方がいいよ、ニア! 速すぎる!」  ニアレアの腰にしがみついている黒猫が、悲鳴のような声を上げる。 「無理言わないで、ヘッダ! 初めて飛んだのに、...
小説

あぶくは願う

山が赤く色付く季節で、海は冷たかった。けれど、水の冷たさなど取るに足らない。  豪奢で幾重もある衣は、海に落ちた瞬間から彼女の体にまとわりつき、水を吸ってますます重くなった。陸であっても動きづらい花嫁衣装は、もはや枷でしかない。その上、手足...
小説

執筆戦隊カケルンジャー

ここに悩めるオンラインノベル愛読者が一人いる。私だ。  ノートパソコンにかじりつき、ブックマークのフォルダ『ラヴなサイト』に分類・最上位に登録し、尚かつ私の運営するラヴなファンタジー小説サイト『Wonder West Wind』のリンクペー...
小説

水切り

短い掛け声と共に腕をほとんど水平に振る。手に握られていた、平たい石が飛び出した。  ほとんど水平に飛んでいく石は、川面にぶつかると弾かれるようにして波紋だけを残し、さらに川面すれすれのところを跳んでいく。少し先で同じように波紋を描き、また跳...
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女神の継承者

あちらこちらから視線を感じるが、室内にエリステイア以外の人はいない。  エリステイアが訪れるまでは室内は無人であった。  空気はよどむことも揺らぐこともなく、冷え冷えとしている。  その冷たさは霊廟か神殿を思い起こさせた。