nagasaka_danpi

小説

かげろうが消えた夏 前編

「あの夏に何があったのか、分かった」  朝、大学へ行く準備をしていた時に立花(たちばな)君から届いた短いメッセージを見て、わたしは思わず声を上げた。  どうしたの、と怪訝な顔をする両親に、何でもないと応えて、必要な物を急いでバッグに詰めてい...
小説

地上を往く 後編

「東郷。スピードを上げろ」 「渡辺さん! 引き返すべきですよ」 「事故ったのかもしれない。それに襲撃を受けたとしても、地上を移動する者として見殺しにはできない」  地上が危険なのは、人体に有害な大気のせいだけではない。人間を襲う無人兵器の存...
小説

地上を往く 前編

ローテーブルに鏡を置いて、その前に座り込んで深清(みきよ)は化粧をしていく。ベッドに恭介(きょうすけ)が腰掛けて服を着ていく様子が、鏡の端に映っていた。 「……今日、深清たちも〈一京(いっけい)〉に向かうのか」 「うん。出発するのは昼前だか...
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糸島くんと山田くんとにぎやかな仲間たち

壁は淡い緑色で、床は濃い緑。天井は壁と同じ色で、無機質な白いライトが等間隔に緑の廊下を照らしている。廊下の行き止まりは扉になっていて、「関係者以外使用禁止」と赤い文字で書かれている。緑の背景に赤い文字は、目に痛い。この扉を見るたびにいつもそ...
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あるいはそれよりも鮮やかな 後編

丹野の真っ赤な防護服に見慣れ、真新しかった堀川の作業着にも、いつの間にか、こすり洗いしても落ちない汚れが着くようになっていた。丹野の防護服のLEDライトが点灯するとろこはお目にかかったことがなかったが、特に気にしなかった。慣れとは恐ろしい。...