300字SS ダッシュ・ダッシュ 大きな水音と共に泥が跳ねた。水溜まりがあったらしい。しかし構わず疾走を続けた。 目標との距離は殆ど変わっていない。「無駄だ。追い付けないよ」 前方から声が飛んでくる。 追い付けないのではなく、引き離されていないのだ、と自分に言い聞かせる。よ... 2025.03.20 300字SS小説
小説 空が晴れである限り 気持ちよく晴れた空の下に、それにふさわしくない音が響いていた。 死の宣告のように重苦しい音。それに比べるとかわいそうなほど小さく、必死な足音。 一人の少女が、岩と泥でできた人型の化け物に追われていた。化け物の大きさは、少女の優に三倍はある。... 2024.06.23 小説短編
300字SS 瓶詰めの夜空 幼い頃、意気揚々と遊びに行って、泣いて帰ってくることが時々あった。「お空を見てごらん」 いつまでも泣いている私に師匠が優しくささやく。満天の星が涙の向こうで輝いていた。「これを持って。さあ、呪(まじな)いの時間だ」 幼い両手で持たされた瓶の... 2023.04.15 300字SS小説
短編 灯火の行く末 それは、生きる灯火だった。 ありきたりで片付けられるのは不本意ではあるが、私からすれば、道行く人もありきたりの普通の人生を送っているのだろう。 そんなありきたりな、暗闇を這うような人生を歩んできた私にとって、その人はまさに灯火だった。 力強... 2023.02.12 短編
300字SS 書き初め 年が改まって最初の市は、毎年大賑わいだ。 今年一年の幸せを求めて、呪まじない師の店にも多くの客が訪れる。呪い師がその年初めて書く護符は、特に効果があるとされるのだ。 ゆえに人気の呪い師の店先には、書き初めの護符をもらおうと前の晩から待ち構え... 2023.01.21 300字SS小説