出世街道まっしぐら

 部屋の片隅には赤ん坊くらいの大きさの人形がある。薄汚れて右目はなく、脇から綿が出ている。ごみ捨て場で拾ってきた人形だ。

「手伝うんじゃなかった」
「あんなに親切にしたのに」
「皆のためになるからやったんだ」

 地方出で家柄もない平民が出世するには拾った人形に余計な感情を捨てるといいと、老いた魔導師に教えられた。
 愚痴と共に捨てる度、出世の階段を上っていく。
 やがて誰もが羨む栄達を遂げても、何の感慨もなかった。
 人の心を持たない人形だと言われても、何も感じない。ここに来るまでに感情を一つ一つ捨ててきたのだから当然だ。
 捨てられる感情はもうほとんど残っていない。この命を惜しむ気持ちも。
 閃く刃をただ無感情に見ていた。

※300字
※Twitter300字SS参加作品、第84回お題「捨てる/棄てる」

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