17.通信士

 あの日、月面都市で暮らす人類は、地球に衝突する小惑星を、塵に覆われて灰色の惑星と変わっていく地球を、ただ見ているしかなかった。
 地球に接近する小惑星が発見され、それとの衝突が避けようがないと判明した後、月面都市へ避難しようと人々が殺到した。あっという間に居住可能人数を超えたため、月は受け入れを拒否せざるを得なくなった。火星へ向かう人々もいたが、月のように簡単には行けないため、地球に残された人々は、月の無慈悲を嘆き、非難した。
 衝突を回避しようという試みも行われたが、映画や小説のようにはいかなかった。
「――こちらは月面都市オピーオーン。マリウスの丘から、地球に呼びかけています。もし聞こえていたら、応答願います。こちらは月面都市オピーオーン……」
 人類史上初めて、大規模な小惑星衝突の瞬間と、その後に起きた現象を観測することとなった。大量に巻き上げられた塵が地球を覆うのは衝突前から予測されていたことだが、その後に地球上のあちらこちらで火山活動が活発化することまでは予測できなかった。
 分厚い塵の膜は、地球と月の通信を不可能にした。衝突後の地上がどうなっているのか、月面の人類は知る術がない。地球上の人類がどれほど生き残っているのかどうかさえ、分からなかった。
 塵の薄いところがあって、もしかしたら受信できるかもしれないと信じて、こうして呼びかけ続けている。
 月面の人類の大半が地球を諦めてしまってもなお、地球通信用として作られたAIのわたしは、プログラムに従って呼びかけ、応答がないか観測と解析を続けている。
「こちらは月面都市オピーオーン。マリウスの丘より、地球に呼びかけています。もし聞こえていたら、応答願います。オピーオーンの住人のほとんどは火星へ旅立ちました。けれどわたしは、地球からの応答を待っています。わたしは、小惑星衝突後、地球との通信のために作られた人工知能です。地球の人類と交信するために作られました。あなたたちからの応答を、いつまでも待っています。こちらは月面都市オピーオーン。地球のみなさん、お元気ですか。いかがお過ごしでしょうか。もし聞こえていたら、応答願います。こちらは月面都市オピーオーン……」

〈了〉

コメント

タイトルとURLをコピーしました