300字SS 種撒く人 「私の記憶に間違いなければ蒼藤の月一日。晴れ後雷雨。気持ちよく寝ていたら雷に起こされ、雨に見舞われる。昼寝を邪魔され不愉快だが、全身が洗えてすっきりできたので良しとする」 話しかけていた相手である黒く小さな種を、薄緑色の瓶に入れてしっかり... 2021.05.01 300字SS小説
300字SS ともしびの道 「君の力を、僕に貸してくれないかい?」 満月を背にしても、その顔ははっきりと見えた。自分自身が、月よりほんの少し明るく光っていたから。 でも、優しげなその表情は、太陽よりもずっとずっと明るく見えたんだ。 「今日も見つからなかったねえ。い... 2021.04.03 300字SS小説
300字SS リモート会議の注意点 私は現代のニッポンを生きる忍者。狙った相手と親密になり、必要な情報を芋蔓式に手に入れる。 世の中は随分と変わった。 カフェや居酒屋で同僚と歓談する風を装っていた仲間や親方との情報交換も、今はリモートで行っている。 画面の向こうの親方は... 2021.03.06 300字SS小説
300字SS 運命屋 近い将来さえ見通せない、先行き不安なこのご時世、確かなものを求めるのは無理からぬこと。 不確かな人生に、確かなものを。定かではない未来に、定められた運命を。 これは、『運命』を手にできるお薬です。 様々な『運命』を取り揃えておりますよ... 2021.02.06 300字SS小説
小説 春に溶ける 今でも悔いていることがある。懐に忍ばせている小さな小さな角笛を手にする度、後悔が生まれ、心の中に降り積もる。溶けて消えはしない。 謝りたくとも謝れない、返したくとも返せない。角笛の持ち主は、一つの地に長く留まることはない人だから。 かつ... 2021.01.01 小説短編