「君の力を、僕に貸してくれないかい?」
満月を背にしても、その顔ははっきりと見えた。自分自身が、月よりほんの少し明るく光っていたから。
でも、優しげなその表情は、太陽よりもずっとずっと明るく見えたんだ。
「今日も見つからなかったねえ。いやはや、精霊峰への道のりは険しい」
「……ごめんよ、ゼンテ。自分が未熟なばっかりに」
「君のせいじゃないさ。未熟なのは僕だよ」
希代の天才精霊術士であるゼンテが、すぐに消えてなくなるだろうと仲間にさえ言われた自分と契約を結んでくれた。
それが彼にかけられた呪いのためだとしても、自分という火の精霊を必要としてくれた。
だから、照らすのだ。彼の行く道を。できるならば、彼の心をも。
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※Twitter300字SS参加作品、第74回お題「道/路」
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