小説 軒下で芽生え、落ちる 天気予報が外れたので、恋をした。 明日は一日中雨、時々止みますが、日射しは届かないでしょう。 キャスターの声を背中で聞きながら、明日天気になあれ、と軒先にぶら下げられたわたし。 わたしを見上げる顔は、期待よりも不安の方が大きい。無理も... 2023.05.27 小説短編
300字SS 書き初め 年が改まって最初の市は、毎年大賑わいだ。 今年一年の幸せを求めて、呪まじない師の店にも多くの客が訪れる。呪い師がその年初めて書く護符は、特に効果があるとされるのだ。 ゆえに人気の呪い師の店先には、書き初めの護符をもらおうと前の晩から待ち... 2023.01.21 300字SS小説
短編 続・ぼくのサンタクロース その小さな島は、海岸の目と鼻の先にあった。島に渡るには舟を使うか、潮が引いたときにだけ現れる道を通るしかない。ただし、島自体が神域であるため、上陸できるのは許された者だけだ。 ただ、見咎める者のいない夜にこっそりと島に渡り、置きみやげをし... 2022.12.24 短編小説
小説 ぼくのサンタクロース 冬になると雪に閉ざされる北の国々と違い、南方の面影が濃いこの地方では、冬であっても氷が張ることさえ稀だ。吐く息が白くけぶるのは朝も早いうちだけのこと。日が、その姿をすべて現せば、たちまち白い息は光の中に溶かされ見えなくなる。師走となり、風が... 2022.12.24 小説短編
小説 森のほとりの怒れる人 〈マの森〉に一人で入るな、と大人達が口を酸っぱくして言っているのに、ポラはいつもお構いなしだ。今日は朝から姿を見かけないなと気付いた頃に、全身草まみれで現れる。 「キュラ、お土産だよ」 満面の笑みで、小さく綺麗な花束や、珍しい木の実を差し... 2021.12.25 小説短編