ダッシュ・ダッシュ

 大きな水音と共に泥が跳ねた。水溜まりがあったらしい。しかし構わず疾走を続けた。
 目標との距離は殆ど変わっていない。
「無駄だ。追い付けないよ」
 前方から声が飛んでくる。
 追い付けないのではなく、引き離されていないのだ、と自分に言い聞かせる。ようやく見つけたのだ。絶対に逃がさない。
 呪文を唱え、短刀を放つ。常ならば届かない距離だが、呪力を帯びた刃は目標の肩をかすめた。
「背後から狙うなんて卑怯だ、兎水(とみ)」
「その名を口にするなあ!」
 新たな短刀を放つ。怒りに任せた刃は目標の背中を捉えた。
 喜ぶには早すぎる。
 取り返さなければならない。あいつから。私の名すら忘れたあの方の、奪われた記憶を。
 倒れた背中はもう目の前だった。


※300字
※毎月300字小説企画参加作品、第11回お題「奪う」

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