朝はいつでも忙しい。朝食を作り娘を起こしてご飯を食べさせ、保育園に行く支度をする――のだが、すんなり行かない日の方が多い。娘がご飯を食べてくれなかったり、着替えてくれなかったり、靴を履いてくれなかったり、髪型を気に入ってくれなかったり、理由は様々だ。
今日は目覚めもよく朝食も残さず食べ、ご機嫌な様子で着替えてくれた。が、ご機嫌すぎて少しもじっとしてくれない。
足の間に座らせて髪を結ぼうとするのだが、父の足をバシバシ叩きながらゆらゆらと頭を動かすので、艶やかでなめらかな髪が、するりと指の間から逃げていく。二つ結びにするだけではすぐにほどけてしまうので、できれば編み込みにしたいのに。もっとも、編み込みにしても、結局、元気よく動き回ってぼさぼさになってしまうのだが。
「おとーさん、はやくおしごといかないと、ちこくするよー」
まだまだ舌足らずなしゃべり方で、いっちょ前なことを言う。お父さんがお仕事に行けないのは自分のせいだと露ほども思っていないのがおかしくて、苦笑する。
動く頭を追いかけつつ、なんとか髪を編み込んでいく。左右だいたい均等にできた。自分の髪を結んだことさえないのに、やればできるものだと、我ながら感心する。
亡き妻ならもっと上手にできたかもしれないが、それでもよくできたと言ってもらえる出来映えだろう。娘も満足そうに玄関へ走っていく。
「蒼乃。お母さんに『行ってきます』は?」
早々と靴を履いて出て行こうとする娘の小さな背中に声をかける。娘は玄関に飾ってある写真に向かって、いってきます、と元気な声で手を振った。
「――行ってきます」
自分も写真に声をかける。今日は上手に編み込みができているだろう、とついでに胸中で呟いた。
数年前、生まれたばかりの娘と初めて撮った家族写真。幸せそうな顔の妻が、いつでも出かけるのを見守ってくれている。
〈了〉
16.編み込み
novelber
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