短編

掌は塵と消えて

掌は塵と消えて〈1〉

物の怪は人の体を食らい、心を食らい、魂を食らう。 物の怪は闇に潜み、闇に紛れ、闇から現れる。 人が知らぬ間、気付かぬ間に、物の怪はすぐそばまで忍び寄り、隙あらば人に襲いかかる。 物の怪退治屋となって十年ほど。一弥(いつや)が知る限り、物の怪...
短編

空が晴れである限り

気持ちよく晴れた空の下に、それにふさわしくない音が響いていた。 死の宣告のように重苦しい音。それに比べるとかわいそうなほど小さく、必死な足音。 一人の少女が、岩と泥でできた人型の化け物に追われていた。化け物の大きさは、少女の優に三倍はある。...
小説

軒下で芽生え、落ちる

天気予報が外れたので、恋をした。 明日は一日中雨、時々止みますが、日射しは届かないでしょう。 キャスターの声を背中で聞きながら、明日天気になあれ、と軒先にぶら下げられたわたし。 わたしを見上げる顔は、期待よりも不安の方が大きい。無理もない。...
短編

忘れ得ぬもの、まだ見ぬ世界

その感触を、生涯忘れることはないだろう。けれど――。「火星行きが目前で、ナーバスになってるだけじゃない?」 少し呆れた顔の同僚達に見送られ、地球行きの船に乗る。きっと仲間の言う通りだ。月生まれなのに、地球の青さに懐かしさを感じるのは、もうす...
短編

灯火の行く末

それは、生きる灯火だった。 ありきたりで片付けられるのは不本意ではあるが、私からすれば、道行く人もありきたりの普通の人生を送っているのだろう。 そんなありきたりな、暗闇を這うような人生を歩んできた私にとって、その人はまさに灯火だった。 力強...