300字SS

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鍵なる娘は森の奥に

森の奥深くに聳える巨木のうろには、娘が埋まっている。その娘が世界を辛うじて守っているのだ。 世界は緑に覆われていた。一晩目を離せば畑が緑に奪われるほどに。だから、森のほとりに住む若者は成人の儀礼として、うろに眠る娘の目覚めを促すのだ。彼女が...
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インク職人は忙しい

インク職人の朝は早く、夜は遅い。 客である魔法使いたちの要求は様々なのだ。朝露を集め、新月の夜に採るべしとされる薬草を探さねばならない。 昼は調合と接客、材料集めも欠かせない。 インク職人は忙しい。 魔法使い達は魔術書に呪符に、筆とインクを...
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火星ライブラリー

彼女の背丈よりうんと高い本棚の下の方はぎっしりでも、上になるほど少なくなる。「火星に図書館を作りたかったんだ」 彼女が館長と呼んでいるその人は、火星入植団の第一世代。昔は館長が高いところの本を取ってくれたが、今では彼女が館長に代わって取って...
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余り物の魔法遣い

魔法遣いは世界の様々な事象に干渉するために呪文を唱え、文字や文様として刻む。 完璧に唱えられた呪文、正しく綴られた文字、美しく施された文様――だが、魔法遣いも所詮人間だ。一分の隙もない完璧や正しさは存在しない。不完全な魔法からは、完全になれ...
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昔話は語られない

島にはかつて竜が一匹いた。その竜が異界の侵略者を退けていたので、崇められていたという。 その竜には番である魔女がいた。その絆は強く、魔女は竜をよく助け、竜と共に島を守っていた。 だが今は、竜も魔女もいない。 いや、魔女はいる。しかし、竜の番...