第七話 厚みのある精鋭たち 01
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 ユマの前に置かれたテーブルの上では、今日もシマリウス二号以下略たちの寸劇――もとい、シマリウス一号の報告の再現が行われていた。それによると、エルトックたちはシクタクまでやって来ているらしい。エルトックとヒエラの一行にシルヴァナとティトーが加わったので、紙人形シマリウス系にも新たに五号が追加増員された。シマリウス五号はティトー役専属なので、犬を模した形に仕上げてある。
「いかがでしたでしょう、ユマさま」
 報告を終えると、テーブルに集まった全員を代表して、シマリウス二号がユマに尋ねた。
「うん。良かったよ、ありがとう」
 ユマの労いの言葉に、シマリウス二号以下略たちが歓喜の声を上げる。ユマは小さな紙人形たちが喜ぶさまを眺めながら、たったいま上演された報告内容を反芻していた。
 大きな問題に遭遇することもなく平穏無事に、エルトックたちの旅は進んでいる。シクタクまで来たのなら、もうすぐアルキマ山のふもとの町アルオンにもたどり着く。それはいい。問題ないし、予定通りだ。
 予定外なのは、やはりシルヴァナの存在だ。シルヴァナがエルトックたちに同行する理由は分からなくもないが、その理由自体に意味があまりないとユマは考えている。それを、シマリウス一号を通してシルヴァナに直接言ったのだが、逆効果でしかなく、結局ユマはシルヴァナが同行しても大勢に影響はないと判断した。しかし、シルヴァナはエルトックに「ユマがエルトックに呪いをかけた真意がある」ことをほのめかしてしまった。それが、いちばんの問題なのだ。
 エルトックに『世界を救わなければ死んでしまう』という呪いをかけたのは、いつものような魔法の実験ではない。そう見せかけていただけで、エルトックは今までが今までだったから、ユマが呪いと知りながらそれを故意にエルトックにかけたとは疑いもしなかっただろう。エルトックの前から姿を消して、シマリウス一号たちを作ることを思い付いた後にシマリウス一号に見張らせていたが、その間もずっと、エルトックはユマがわざと呪いをかけたと疑う素振りさえ見せなかった。
 ユマは柳眉をひそめた。エルトックには、せめてすべてが終わるまでは何も知らないままでいてもらいたかった。疑うことすらなく。
 それなのに、シルヴァナときたら。エルトックがユマの真意に気付いて、もしも途中で家に帰ると言い出したらユマも困るが、シルヴァナ自身も困るだろうに。
(でも、いくらエルトックが魔女であるわたしと一緒に大きくなったからって、まさか気が付くわけないか……な?)
 希望としては、そうであってほしい。エルトックには今までも色々な魔法を披露してきたが、魔法に関する書物などは、エルトックが興味を持たなかったこともあってあまり見せたことがない。魔法は見たことはあっても、魔法についても魔女についても詳しいことは知らないはずだ。しかし、万が一ということもあるし、シルヴァナの存在もあるから、ここはひとつ手を打った方がいいだろう。
 ユマはそう決めると、椅子から立ち上がった。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 アルオンから望むアルキマ山は、南部最高峰の標高を誇るだけあって周辺の山よりもずっと空に近そうだった。
「いよいよ魔王が潜伏するアルキマ山のふもとまで来ましたね」
 最終目的地はもう目の前で、俺たちの旅の終わりも近づいている。アルオンに到着して宿に入った俺たちは、今後の対策を練るために、宿からほど近い食堂にいた。三人で囲む丸い食卓には料理が並んでいるのは、夕食をかねて食堂へやって来たからだ。
「ようやくって気もするし、もうって気もするな。長いようで短かったような、そうでもないような……」
 俺が、細切れにされたオーオー鳥の素焼きを食べながらいうと、向かいに座っているシルヴァナが軽くため息をついた。
「エルトックって、のんき者ね。魔王は目の前なんだから、もう少し勇者らしいこと言えないわけ?」
 呆れたように彼女は言ったが、俺としてはそんなこと言いたくもない。夕食時で店内はにぎわっているから、隣の見知らぬ客の話をわざわざ聞いている人などいないだろうけど、人前で頼むから俺のことを勇者と言わないでほしい。恥ずかしいじゃないか、今どき俺たちのような年頃で勇者って言うこと自体。それに、俺は最初から自分が勇者だなんて思っちゃいないぞ、悪いけど。しかし、それをシルヴァナに言うと、倍以上の言葉で言い返されそうな気がするから、俺は黙ってオーオー鳥の素焼きを口に運んだ。
 ちなみに、ティトーは宿で留守番している。宿はなんとか「軍の機密」でごり押しが通るが、さすがに飲食店はそうはいかない。露天ならいいけど屋内はまず無理なので、俺たちが外に出ている間は、ティトーには荷物の番もかねて留守番してもらっている。一人で置いて行かれるのが寂しいのか、見送る時のティトーはいつも黒い瞳を潤ませて悲しげに「いってらっしゃい」と言い、帰ってくると、足音を聞いて待ち構えているのか扉を開けた途端に飛びついてくる。もっとも、短い足ではそれほど高く跳ねることはできないようで、俺の膝頭に胴体をぶつけているだけにも見えるのだが、何故か飼い主のシルヴァナではなく俺に飛びついてくる。ティトーはすっかり俺になついてしまっているようで、シルヴァナは「仲が良いわね」と興味なさそうに言って放っているし、ヒエラに飛びつこうとしても思い切り避けられてしまうので、やはり帰る度にティトーに飛びつかれるのは俺だ。まあそれくらい、別に構わないんだけど。
「でも、アルキマ山がもう目前にしても、山中のどこに魔王が潜んでいるんですかね」
「そう言えばそうだな」
 ルーインさんに言われて南下し、シマリウス一号がアルキマ山の洞窟にいると口走ったからここまで来たわけだが、洞窟といってもそれがどこにあるのか分からないし、アルキマ山に一つしかないとも限らないだろう。
「ヒエラまでのんき者なのね。今頃になって、それを言うわけ」
 シルヴァナがますます呆れた声で言うが、当のシルヴァナだって今まで一度もアルキマ山にユマがいるとは言っても、具体的に山のどこにいるのかまでは口にしていないから、俺たちと大差ないとは思うんだが、やっぱり俺はそれを言わなかった。
「シルヴァナさんは、知っているんですか」
 すごいぞ、ヒエラ。おまえが俺とまったく同じことを考えていたゆえの発言かは定かじゃないけど、シルヴァナに訊くこと自体がすごい。
「……知ろうと思えば分かるけど」
 シルヴァナは尋ねられたのが不愉快だったのか、片眉をぴくりと上下させた。
「魔法で?」
「そう。でも、色々と手間がかかるから、あまりやりたくないわ」
 明らかに乗り気ではないシルヴァナに、俺は心から言いたい。俺には勇者らしいことを言えと言っておきながら、自分は魔女らしいところを見せようとしないのかよ! そう言ったら後が怖そうなので、俺はやっぱり口にする勇気は持てなかったのだが。
「それに、わたしが魔法を使うよりも手っ取り早い方法があるわよ」
「どんな方法なんですか」
 ヒエラはやる気のない魔女に不満は全くないのか、シルヴァナの言ったことにあっさりと食いついた。
「簡単よ。いつも尾行しているあの大きな紙人形を捕まえて問い詰めればいいのよ。シマリウス一号だっけ、あれを」
 確かにそれは手っ取り早そうで、多分シルヴァナがいなくても俺とヒエラでなんとかなりそうな方法で、シルヴァナにやる気がない以上俺はその方法でも構わないのだが、あまりやりたくないという点では、ヒエラがそれに該当するんじゃなかろうか。
 そう思ってヒエラを見ると、期待に輝いていた目が急速に輝きをなくしていた。やっぱり。
「……で、でも捕まえられるでしょうか」
「見たところ間抜けそうだから、簡単につかまるんじゃない?」
「でも、捕まえても大人しく白状するんでしょうか」
 紙人形に心の傷を負わされたヒエラは、なんとかシルヴァナの提案した方法を撤回させようとしているが、紙人形にまつわるヒエラの恐怖体験を知らないシルヴァナは少しも引かない。
「脅せばいいじゃない。燃やすとか言って」
 それどころか、さらりと物騒なことを言ってみせる。この一言にはヒエラも絶句した――かに見えたが、今日のヒエラはしぶとかった。
「そ、それなら、ティトーににおいで魔王を捜し当ててもらうというのは」
「そういう芸を仕込んでることは仕込んでるけど、あの子あまりやりたがらないのよね。まあそれでも、宿に戻って一応訊いてみたら?」
 珍しくしつこく食い下がるヒエラに対して、素っ気なく言ったシルヴァナの答えはあまり期待の持てないものだった。
 その後、宿に戻るなりヒエラはティトーににおいをたどってくれるか尋ねてみたものの、ティトーは飼い主と同じくらい素っ気ない態度で、ヒエラの提案を却下した。
 シルヴァナが面倒なのを我慢して魔法を使ってくれたら、においをたどったり捕り物をしたりしなくていいのだが、魔女のわがままにより、シマリウス一号を捕獲する方法を採用するしかなくなったのである。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 不気味な紙人形が徘徊するという噂は、俺たちにとってはもう当たり前のように耳に飛び込んできていた。一度、噂を聞かなかったことはあったが念のためと真夜中に張り込んでいたら、紙人形が現れたので、新しい町にやって来たら噂を聞いても聞かなくても、張り込むようになってしまった。なんだか悲しい習慣だ。
 今夜も、俺とヒエラとティトーで、物陰に潜んでいた。しかし、今夜待っているのは小さな紙人形の集団だけじゃない。シマリウス一号が現れるのも待っている。
「そもそも魔王のにおいを知らないから辿りようもないわ」
 ティトーはそう言って、ヒエラの一縷の望みをあっさりと打ち砕いたのである。
 シマリウス一号は、小さな紙人形とは違って大人と同じくらいの大きさだが、人気のない場所では隠れることなく尾行している。いや、シマリウス一号的には隠れているつもりなのかもしれないが、木の陰や岩陰からあからさまに頭や手や足をのぞかせているのでは、わざとそうしているとしか思えなくなる。しかし、さすがに人気のある場所でそんな怪しい行動を取ることはなく、町が近づいてくるといつの間にか姿を隠す。それはもう、影も形も残らないほど綺麗に隠れているから、俺もヒエラもシマリウス一号がどこにどうやって隠れているのか分からないほどだが、あえて探したことはないから案外壁の隙間にでも隠れているのかもしれない。その証拠に、町中であっても深夜なら、シマリウス一号はどこからともなく現れて、紙人形を待ち伏せる俺たちを物陰からじっと見ている。物陰がなくて、軒下にぶら下がってこちらを伺っていた時は、ヒエラばかりじゃなく俺も驚いた。
 今夜はまだシマリウス一号を見ていないが、どうせ近くにいるのだろう。初めてシマリウス一号を見つけた時もそうだったが、まるで見つけてくれと言わんばかりに隠れきっていないので、根気よく待っていればいずれ向こうから姿を見せるはずだ。
「やや。来たぞ、エルトック」
 俺のすぐそばで『ふせ』をしていたティトーが、紙人形の気配を察知して立ち上がる。一縷の望みを砕かれてどこか恨めしそうにティトーを見ていたヒエラの顔に、緊張が走る。俺は紙人形のカサカサという足音を聞きながら、シマリウス一号がいないか周囲に視線を巡らせる。
 まだいない。けれど、立ち上がったティトーがその辺に隠れていないか捜しに行った。積極的だな、ティトー。でも多分、シマリウス一号を捕まえるまで今夜の張り込みは終わらないから、紙人形が先に現れた以上もう待てないと思ったんだろう。俺としても助かるから、構わないんだが。
「来ました、エルトックどの」
 いつまでたっても紙人形に慣れないヒエラの固い声。俺のすぐ目の前まで、紙人形の集団が迫っていた。俺はそいつらに向けて一歩踏み出す。すると、いつものように紙人形はぱたぱたと倒れていった。真夜中まで待ち伏せをするのがなんだかバカバカしくなる瞬間だ。でも放っておいたら町中が騒ぎになるかもしれないし俺の命も危ないかもしれないので、どんなにバカバカしくても俺はこいつらに付き合わないといけない。だけどユマを見つければ、もうこんなことをしなくてもいい。
 そのユマのそばまで、ようやく辿り着いた。シマリウス一号、俺たちが早く帰宅できるかはおまえにかかっているんだぞ。さっさと見つけられてくれ。
 倒れて動かなくなった紙人形を、用意していた袋にヒエラと一緒に詰め込んでいた時、ティトーが一声吠えた。ティトーが俺たちしかいない時に普通の犬らしく吠えるなんて珍しい――じゃなくて、ティトーはわざわざそうすることで俺たちの注意を引きたかったに違いない。
「どうした、ティトー」
 袋をその場に置いて、俺とヒエラは少し離れた路地にいたティトーの元へ駆けつけた。
「あ」
 駆けつけてすぐ、俺は声を上げた。ティトーのそばの壁に、シマリウス一号が貼り付いていたのだ。隠れているつもりかもしれないが、壁と明らかに色が違うし、裏面を壁側にして貼りついているから、胴体にデカデカと記されている『シマリウス一号』という文字がはっきりと読み取れる。つまり、まったく隠れられていない。
「勇者どの。どうしてここが分かったのですか!」
 シマリウス一号はわざとらしいほど驚いた声で言ったが、隠れているとはとうてい言えないお粗末な隠れ方でよくもそんなことが言えるな、シマリウス一号。
「ふふ、エルトックにはティトーという優秀な相棒がついているのさ」
 シマリウス一号を見つけたティトーが得意げに言うが、おまえはいつから俺の相棒になったんだ。それに、シマリウス一号のこんな隠れ方じゃ、別に優秀じゃなくても見つけられそうだぞ。
「なんと。愛玩動物と侮っていたら、まさかしゃべる犬とは!」
 紙がしゃべって動いている方がどうかと思うが、比べたところでドングリの背比べだ。ていうか、俺たちをずっと尾行していたくせに気付かなかったのか、シマリウス一号。
「逃がさないぞ、魔王の手下め!」
 俺が、どこか寸劇でも観ているような気分で傍観していたら、俺の横をヒエラがさっと通り過ぎていった。見ると、桶を脇に抱えている。ヒエラ、いったいどこからそんな桶を。というか、それでどうするつもりなんだ。
 勇ましい声を上げて立ち向かうには相手が貧弱すぎる気はしたが、ヒエラは紙人形に対する今までの恨み辛みをはらすかのように、桶の中身をシマリウス一号にぶちまけた。
 壁と地面に黒いシミが広がり、シマリウス一号の足下に水たまりができる。なんだ、水の入った桶だったのか。防火用かなにかの桶を、ヒエラが見つけて持ってきたのだろう。しかし、いくら間抜けとしか言いようのない姿形を採用しているにしても、シマリウス一号を雨にやられるほど柔なつくりに、ユマがしているだろうか。
 そう思っていたら、水を浴びせかけられたシマリウス一号が低い声で笑った。濡れた上に壁に貼りついたままだから、いつもと微妙に声音が違う。
「ふふふ、魔王ユマさまの手下であるこのシマリウス一号、たかが水でしおれるほどしおらしくはできておりませんよ」
 案の定シマリウス一号にユマはそれくらいの細工をしていたわけだが、シマリウス一号の今の言い方はちょっと違うだろう。確かにしおらしくなんかなさそうだけど、違うだろう。
 俺のそんな心のつっこみに気付くはずもなく、シマリウス一号は更に笑う。
「わたくしには、なんと防水加工が施されているのです。雨の日も風の日も雪の日も、勇者どのを見守り続けられるように!」
 風の日は関係ないだろ――じゃなくて、どうしてこいつは訊かれていないことをいちいち口にするんだろう。それもわざとなのか?
「そんな。せっかく水があったのに……」
 ヒエラがうちひしがれた声で言うが、そんなに悲しむようなことでもない気がするのは、俺だけだろうか。
「さらばです。勇者どの!」
 へにょり、とシマリウス一号が壁からはがれ――もとい離れる。そして、やっぱり笑いながら俺たちに背を向け、水をしたたらせながら走り出した。
「あっ。逃げるぞ、エルトック!」
 そう言って、ティトーがちょこまかと走り出す。
 いつか見たように、走るシマリウス一号は空気抵抗を受けているせいか身体の半分以上が後ろにしなっていて、俺たちから線だけしかない顔が見えるのが、なんだかイヤだった。あれを追いかけないといけないと思うとあまりやる気は湧いてこないのだが、逃がすわけにもいかないから俺もティトーに続いて走り出した。
「待て、シマリウス一号!」
「はっはっは。待てと言われて大人しく待つ間抜けがどこにいるでしょう」
 水を振りまきながら走るシマリウス一号の足は、意外と速い。それを追いかけるティトーも同じだ。もの凄い勢いで、短い足が動いている。
「うぅむ、悔しいがその通りだ。だが、大人しく捕まる方がおまえのためだぞ」
「ほっほっほ。やはりそんなことを言われたところで、大人しく捕まる大間抜けなどございません」
「むむう、悔しいがその通りだ」
 真夜中の路地で繰り広げられる追跡劇は、間抜けな会話で演出されている。ティトーとシマリウス一号がどことなく楽しそうなのは、俺の気のせいだろうか。
「あっはっは。捕まえてごらんなさぁい」
「待て待てぇい、シマリウス一号」
 なおも逃げるシマリウス一号。
 それを追いかけるティトー。
 さらにその後を追う俺とヒエラ。
 真夜中の鬼ごっとを、俺たちはいつまで続けていればいいんだろう。まさか朝までってことはないだろうなと俺が一抹の不安を感じた時、不意にシマリウス一号の前に人影が立ちはだかった。
「主さま!」
 ティトーが嬉しげな声を上げる。シルヴァナを見て喜ぶなんて珍しくないか、ティトー。
「あっ、あなたは!」
 シルヴァナの突然の登場に、シマリウス一号が慌てて足を止める。
「見てられないわね」
 だが、止まったのはシルヴァナのすぐ目の前で、シルヴァナはあっさりとシマリウス一号の胴体を掴むとそこから二つに折り畳んでくるくると手際よく筒状に丸めていった。その間、「ああ~」というシマリウス一号の断末魔(?)がむなしく響く。
「まったく。こんな間抜けと鬼ごっとしてどうするのよ、あんたたち」
 丸めたシマリウス一号をぽんぽんと片方の掌に叩き付けながら、シルヴァナは呆れていた。
「あー、それはまあ、成り行きというかなんというか……。それより、こんな時間に起きてるなんて珍しいな」
 シマリウス一号を捕まえようと言い出したのはシルヴァナだが、いつものように全部ティトーに押しつけて宿で休んでいたはずだ。手伝うなんて一言も言っていなかったし、期待もしていなかったから正直驚いてる。
「大丈夫かと思って様子を見に来たのよ。そしたら案の定」
 丸めたシマリウス一号を俺に手渡し、シルヴァナは肩をすくめた。魔女の意外な一面を見た気がする。
「わたしがいて良かったでしょう」
 シルヴァナがにっと笑ったが、最後の一言がなければもっと良かったのにと俺は思った。

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(C) Nagasaka Danpi 2006-2009