ソノゴノオロチ

 顔は瓜二つであるが、性格はまったく異なる双子であった。
 赤子のまま捨てられたのを、化け物退治を得意とする巫女に拾われた。
 巫女の屋敷には、昔退治した二つ頭の大蛇を弔う塚があり、双子は、その前に置き去りにされていたのだ。故に大蛇の生まれ変わりだと周囲は双子に奇異な目を向ける。
「我らと似てるし、全然おかしくない」
「目が二つに鼻と口は一つずつ。確かにそっくり」
「鼻の穴が二つのとこまで似てる。嬉しい!」
 慰めともつかない慰めの言葉をくれるのは、先頃巫女が式神にした三つ頭の蛇である。元は巨木のように太い体だったが、今はふつうの蛇と変わらぬ大きさだ。
「俺の目は一つ。お前らと似てるのはこいつだけだ」
 双子の一人は拾われた時から左目が潰れていて、足元をうろちょろする蛇にすげない。三つの頭が一斉にもう一人の方を向いた。
「でもこいつとあいつの顔、そっくりじゃね?」
「ぶっちゃけ見分けがつかない」
「つまりやっぱり似てる」
「でも我の心はより我らと似てる方のものよ!」
 双子に妙な仲間意識を持つこの三つ頭、入るなと言われたところに潜り込んで侍女たちを驚かせ、食べるなと言われた庭木の実を食らう。式神として役に立つのかはなはだ疑問で、巫女にそれを問えば、黙して視線を逸らすのみ。
 双子以外の者は三つ頭を不気味がり近寄らないので、面倒を見るのは双子の、特に両目の揃った方だった。三つ頭に懐かれているのは大蛇の生まれ変わり故だと使用人たちは囁き合い、ますます遠ざける。長く屋敷にいる割に、双子が言葉を交わした相手は少なかった。
「使用人がまともで、あの女がおかしいんだよ」
「何ということを。それに育ての親を『あの女』などと」
「俺たちを大蛇の生まれ変わりと思って飼っているだけだ。あの女は化け物に情けをかける。だから、白髪が生える歳になっても独り身なのさ」
「なんと無礼な」
 左目がない方はよくそう言うが、屋敷を出て行かないのは、侍女の一人と密かに懇ろになっているからだ。本当は感謝の念を持っていることも知っている。
 そして両目が揃った方は、感謝以外の念も持っていた。
 二つ頭の塚の前で、巫女が溜息をついている。
「また、ですか」
 彼女は苦笑を浮かべた。三つ頭が何か悪さをして、退治してくれと例のごとく皆に言われたのだろう。
「無為に殺すのはやめたのです」
 言って、巫女は塚に手を合わせる。
 それを見るといつも、常よりも心が落ち着かず胸が熱くなるのだった。

〈了〉