ミツマタノオロチ

 元は、奇形であるが普通の蛇であった。
 頭が三つあるが、頭が一つの蛇の三倍、頭が良いわけでもなかった。
 いつも近くに自分以外の頭が二つあって、いつもついてきていたから、どうやら二つの頭は自分の一部らしい、ということは理解していた。
「真ん中の。さっきここにあったネズミ食べた?」
「うんにゃ。左のに横取りされた」
「違う。右のがもう食べた」
「嘘つくなお前ら。我、全然空腹なんですけど」
「頭三つあるからな」
「体一つだけど」
「前から思ってたけど、それおかしくね?」
「待って。誰が何しゃべったの」
 理解していたが、自分以外の二つの区別はいまいち付いていなかった。
 体は一つだが頭は三つあるので、ぞれぞれが腹減ったな、といつも思っていた。それ故、頭が一つの蛇の三倍、その蛇は食べた。もりもり食べたので、もりもり成長した。
 ある時その蛇の頭のどれか一つが、その蛇は知る由もないが地上に遊びに来た天女がうっかり落としたおやつの仙桃を食べ、長寿を得た。
 その蛇は自分が長寿になったことも知らず相変わらずもりもり食べていたので、気が付けば樹齢五百年を超える大木より太い体になっていた。
「他の二つの。なんか我ら、体が大きくなってね?」
「どっちか一つの。やっぱそう思う?」
「我以外の。道理で腹が減ると思った」
 そうしてその蛇は、やはりもりもり食べた。
 やがて山だけでは食料が足りなくなり、その蛇は人里へ向かい、そこでももりもり食べた。村人に石を投げられたが、その石も食べた。鍬や鋤を持って向かってくる村人は、口を開けて待ち構えて食べた。
 数が減った村人は困り果てて、一人の巫女に助けを求めた。化け物退治が得意という円熟した美しい女だった。
 巫女を見たその蛇は色めきだった。
「巫女萌え!」
「熟女も悪くない。むしろ良い!」
「待って。我、心は雌だっていま気が付いた」
「どっちか一つの。それマジ?」
「え、熟女好きのこと?」
「我もそれ気になる」
 その蛇を退治しようと巫女が構えているのに、その蛇はもはや巫女そっちのけであった。
 巫女は昔、二つ頭の蛇を退治したことがあった。あの時はすでに頭の一つが潰れていたが、今回は頭が三つ。しかもどれも健在である。しかし、頭が悪そうだ。
 そこで巫女は、呪力を与える代わりに自分の式神にならないか、と提案した。
「なるなる!」
「地の果てまでついて行きます!」
「えー」
 一つの頭だけ不満そうだったが、その蛇はこうして巫女の式神となった。

〈了〉