幽霊屋敷に住むものは

 坂の上には、とっくの昔に住む人のなくなったちょっと大きな家がある。管理する人もいない家はあっという間に荒れ果てて、幽霊屋敷と評判だ――という。
 ちゃんと住人がいるのに、失敬な。
 我が家を指さして幽霊屋敷だと言う人々とは、生物としてのありようが違うだけだ。
 わたしの目には度胸試しだといって学校帰りに忍び込んでくる子供たちの姿は見えるし、彼らに触れることもできる。わたしの声も、彼らの耳には届いている。現に、

「そろそろ塾に行く時間じゃないかい?」

 強がって先頭を歩く男の子の肩を叩き耳元でそう言ってあげると、ひゃあと叫び声を上げて、みんなで転げるように逃げていくのだ。
 そんなことを繰り返していたら、何やらものものしい機材を抱えたおとなたちがやって来た。
 なんだろうと二階の窓から眺めているうち、どうやら彼らは我が家を取材しに来たテレビ関係者だと分かった。幽霊屋敷という噂を聞き付けたのだろう。都会から遠い、こんな片田舎にご苦労なことである。
 わたしが、家に土足で上がり込む主に子供たちにしょっちゅう声をかけたりしているから、幽霊がいる、という証言はたくさんあるだろう。
 だが、度胸試しで乗り込んできた子供と、重たそうなテレビカメラやマイクを持ったおとなたちは違う。わたしは黙って、おとなたちがどうするのか観察した。
 彼らは数日粘っていたが、わたしがじっと黙っているので、当然ながら彼らの期待するようなことは何も起きなかった。そのうち、いちばん偉いと思われる男が「大金をかけて来たのにどうしてくれる」と怒り始めた。そうは言っても、こればかりは部下たちにもどうしようもないので困惑するしかないようだ。
 それでも彼らは更に数日粘ったが、わたしはその間もずっと黙っていたので、とうとう諦めて引き上げていった。
 たいそうなお金をかけたであろうに残念だったね、と思いながら、わたしは彼らの観察記録の仕上げに取りかかる。今夜中に、上司に報告できそうだ。
 一息つこうと、わたしは荒れた庭に出て空を仰いだ。まばらに輝く星の一つ、よく目をこらさなければ見えないその一つが、わたしの故郷。
 地球人の生態を観察するため、わたしはこの地域に派遣された、彼らから見ればいわゆる『宇宙人』なのだ。

〈了〉