文章修行家さんに40の短文描写お題

こちらから拝借してきました。
目指せ、完全制覇! 目指せ、短文描写!
65文字以内に「モノローグ(内面描写/心の声)」・「抽象性」・「理論理屈の語り」を排除して場面を描写しなければいけないそうですが、さてどうなることやら。


 00. お名前とサイト名をどうぞ。また、よろしければなにか一言。
 永坂暖日の夢想叙事です。武者修行をしてみたくなりました。いざ、参ります。

 01. 告白 (65文字)
 海の様に深く青い空には、島の様な白い雲が浮かんでいる。
 朽ちた大地に立つ彼は、母なる海に見守られ、ただ一度の告白をする為に旅立った。

 02. 嘘 (65文字)
 彼は嘘をつく為に生まれ、嘘をついて生きてきた。
 それ故に愛する女に己の愛を告げられない彼は、己の心にも嘘をついて生きるしかなかった。

 03. 卒業 (64文字)
 毎日来なければならなかった此処に来る理由が、明日からはない。
 義務からの解放感とわずかな寂寥感、そして紅白饅頭をたずさえ門を出た。

 04. 旅 (62文字)
 踵の頑丈な靴を、と頼むと靴屋は顔を上げ旅人か、と尋ねた。
 そうだと答える俺に靴を差し出し更に尋ねた。この靴は何足目なのだ、と。

 05. 学ぶ (65文字)
 砂の中で生まれ、違える事なく海を目指す幼い海亀たち。自分の向かうべき場所を彼らがどうして知っているのか知りたくて、今日も海へ行く。

 06. 電車 (64文字)
 一時間に三本は、通学時。
 一時間に二本は、放課後。
 一時間に一本だけの今は、若い恋人たちが田舎で良かったと思う、ささやかなひととき。

 07. ペット (65文字)
 牛さえひと飲みする巨大な口。
 硬い岩をも噛み砕く頑丈な顎。
 掠り傷さえつかない鱗。
 一歩踏み出すだけで割れる大地――それが彼のペットだ。

 08. 癖 (59文字)
 照れた時に鼻の頭を掻くのが彼の癖。
 両親に初めて私を紹介した時、緊張する私の顔と同じくらい、彼の鼻の頭も赤くなっていた。

 09. おとな (64文字)
 広く剃り上げた前額に、束ねた髪をでんと載せた武士は、冬はさぞ寒かった事だろう。
 武士じゃなくて良かったと、髪を七三に分ける冬の朝。

 10. 食事 (64文字)
 話しながらは論外。求められるのは静寂。音をたてなければ尚良し。
 声をあげさせなければ完璧だ。
 彼は口に付いた血を拭い、食事を終えた。

 11. 本 (63文字)
 一冊。これでは低すぎる。もう一冊足す。まだ足りない。ならばと辞書を加える。ダメだ高すぎる。
 理想的な枕の高さは、まだ決まらない。

 12. 夢 (65文字)
 日に映える草原はさながら緑の海。
 そこを素足で駆ける君は、波にたゆたう人魚のようだ。
 そんな光景を夢見ながら、朽ちた大地を踏みしめる。

 13. 女と女 (65文字)
 こぼれ落ちるのは濁りのない温かな雫。そこに小さな嗚咽が加われば最強の武器だ。
 ただし、男限定の。
 彼女は冷ややかな目で泣く女を睨んだ。

 14. 手紙 (63文字)
 額に汗を浮かべ唇を引き結び、指先より小さな文字をじれったいほど慎重に連ねていく。数行だけの短い手紙に、自分の心の総てをのせる。
 
 15. 信仰 (60文字)
 毎朝決まって、君は託宣を待つ信者になる。
 「今日の一位はさそり座のあなた!」
 さそり座の君は顔を輝かせ、明るい声で家を出た。

 16. 遊び (65文字)
 息が切れる。足がもつれる。それでも立ち上がって再び走り始める。
 とにかく逃げるしかなかった。
 遊びの追いかけっこが、本気になるなんて。
 
 17. 初体験 (62文字)
 輪郭をなくした満月はひしゃげて空に無惨な姿を晒し、白い空のふちは焦げて縮れている。
 初めて作った目玉焼きの評価は星一つだった。
 
 18. 仕事 (64文字)
 給湯室にはインスタントコーヒーの香りが満ちていた。
 彼女が「お疲れ様」と差し出すカップを受け取り、隣りで飲む。ささやかな息抜きだ。

 19. 化粧 (64文字)
 丁寧に下地を塗り、その上に粉を重ねる。
 眉を整え、目元は明るい色に。頬は血色よく見えるよう。
 唇に紅を引き、少女は女に生まれ変わる。

 20. 怒り (63文字)
 手始めに投げたのはクッションだった。それでは治まらずグラスの中身を、次にグラスを投げた。
 色々投げつけ、最後に指輪も投げていた。

 21. 神秘 (60文字)
 君がデザートを食べたいと言い出した。コース料理を食べ終えたばかりなのに。
 くびれた体に潜む別腹を、僕はまだ見つけていない。

 22. 噂 (63文字)
 そこに住むのは人食い魔女。迷い人を捕らえて喰らう。
 相棒である剣を携えた男は、精悍な顔に不敵な笑みを浮かべ、単身森へ乗り込んだ。

 23. 彼と彼女 (64文字)
 彼と彼女の仲はもう二度と元に戻らない。二人を繋いでいた赤い糸は断たれた。断ってやった。
 切れた糸の間で、鋏となった女の哄笑が轟く。

 24. 悲しみ (58文字)
 目頭が熱くなり、喉は堪えきれず嗚咽を漏らす。立っていられなくて両手をつく。
 こぼれ落ちた涙はいつまでも床に残っていた。

 25. 生 (64文字)
 甘くおいしい思いだけの人生は楽しいだろう。けれどそこに苦さも加わると、更に楽しく思えるだろう。
 だから、コーヒーはブラックで飲む。

 26. 死 (57文字)
 狭いはずの六畳間は広くなってしまった。吐息がほんの一瞬白く濁る。
 両腕で自分の体を抱き締める。温めてくれた人はもう何処にもいない。
 
 27. 芝居 (65文字)
 落ち着きなく視線をさまよわせながら他愛もない話をまくし立てる。
 彼が役者、観客はわたし。
 芝居のチケットは、彼の浮気の証拠写真だった。

 28. 体 (62文字)
 掌を重ね、指を絡める。
 髪を一房すくい取る。溢れた髪が音もなくこぼれ落ちる。
 命が消えた彼女の美しさは、もう永遠に損なわれない。

 29. 感謝 (65文字)
 幾重にも重なっている花弁は、縁は白いが中心に近づくほど紅が強い。
 ダリア。
 安易だと呆れるあなたの顔を思い浮かべながら、十本を束ねる。

 30. イベント (65文字)
 カレンダーに所々記された赤い丸。誕生日やクリスマス・イヴに加えて何でもない平日にも。
 初めて会った日だと、通りかかった彼女が云った。

 31. やわらかさ (63文字)
 指先にほんの少し力を入れるだけでえくぼができる。指を離せばすぐに元通り。
 口に放り込むととろけて消えるマシュマロが、好きだった。

 32. 痛み (63文字)
 彼女は傘をさしていない。だから雨かと思った。
 それは涙だった。
 差し出す傘がはねのけられて。
 痛むのは彼女の手なのか、僕の心なのか。

 33. 好き (63文字)
 「これ好きだっけ?」
 久しぶりに聞いたと答えると君は、なにが? と云う。
 僕は君がついさっき口にした言葉を耳元で囁いた。好きだ、と。

 34. 今昔(いまむかし) (64文字)
 押入の奥深くに隠すように鎮座していた段ボール箱。青春の断片がそこに眠っていた。
 写真の中の妻と自分の腹に、過ぎ去りし日々を感じる。

 35. 渇き (65文字)
 青空の下に広がる紺青の海。浜との境目で砕ける白波。振り返れば極彩色の植物。
 今初めて心も渇き切ることを知った。何も色は見えなかった。

 36. 浪漫 (64文字)
 不安げな顔をしていたかと思ったら、表情が晴れていく。今度はにやけ顔がやめられないらしい。
 ロマンス小説を読むときの君は表情豊かだ。

 37. 季節 (65文字)
 燃えるような赤なのに、夕暮れの空気は昼間よりずっとひんやりとしている。
 数時間前まで確かに残っていた夏の気配は今はもう何処にもない。

 38. 別れ (64文字)
 丁字路で背を向き合うように別れる。名残惜しいけれどここで帰路は分かれる。
 数歩進んで振り返る。見えたのは私と同じ姿勢の貴方だった。

 39. 欲 (62文字)
 大きな箱には煌びやかな装飾が、小さな箱は飾り気なし。
 恩返しにどちらか一つ差し上げると雀は言うが、こそ泥には究極の選択だった。

 40. 贈り物 (64文字)
 白い袋一杯にプレゼントを詰めた。同じ大きさの袋は四つ。
 重量オーバーだこれじゃあ遅れちまう、と鼻を真っ赤にしてトナカイが愚痴った。

2009.11.15〈了〉