魔女の婿取り プロローグ
 連れてくるんじゃなかった。
 泥と血にまみれ、動かなくなった妹のミセティア。汚れるのも構わず、ダレオナはその体を抱き締めていた。
 冬の足音が聞こえ始めたこの季節、太陽が西に傾き山の向こうへ隠れようとしていて肌寒い。ミセティアの体は、それ以上に冷たくなっていた。今朝、ダレオナの足にまとわりついてついて行きたいとねだっていたのがうそのようだ。
 こんなのうそだったらいいのに、と嗚咽しながら願っていた。ミセティアの体に温もりが戻り、曇った瞳に光が戻り、小さな手のひらでダレオナにしがみ付いて、泣きじゃくってほしかった。怖かったけれど姉様がいて良かったと、泣きながら笑ってほしかった。
 連れてくるんじゃなかった。だけど、ついて行きたいとねだるミセティアに折れたのは、ダレオナだ。
 姉として小さな妹を守らなければならなかったのに。守るだけの力があったはずなのに――。
 遅すぎた、何もかもが。
「魔女だ……!」
 遠くから、脅えた声が届く。誰が最初に、口を開いたのか分からない。だけど、隠しきれない恐怖に彩られたその声をきっかけに、魔女だというどよめきは周囲に広がって、ダレオナに注がれる視線も、今までとは変わっていた。
 地面にへたり込み、動かない妹の体を抱き締めていたダレオナは、うろんな目でそんな彼らを見やった。怪我をしている者もいるようだけど、ミセティアのように動かなくなった者はいない。それがせめてもの救いだった。
「良かった……」
 しかし、ダレオナのその声は誰の耳にも届かず、人々はおぞましいものを見る目で彼女を見ていた。