17. 彼女を取り返せ
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 細い路地の先は行き止まりになっており、道を塞ぐ壁にもたれるようにして、一人の男がぐったりとしていた。
「あっさり犯人が分かったな」
 ぐったりした男を見下ろし、セドは言った。
「だらしない男だな。もう少し骨があると思ったのに」
 セドの隣りに立つライは、不完全燃焼した気持ちを少しでも晴らすかのように、指の骨を鳴らす。
「おまえら、それは脅迫だぞ」
 二人の後ろから、オズワルズのうめくような声が聞こえてきた。
「脅迫? どこが?」
「人を殴って自分の得たい情報を得ることを脅迫と言わずに、なんと言うんだ」
「傭兵流の質問の仕方だよ」
 ライがおどけた声で言ってみせるが、オズワルズはまじめくさった顔である。
「傷害だぞ」
「頭の固い奴だな。懇切丁寧に聞いて、親切に答えてくれるような連中かどうかは、見れば分かるだろう」
「しかし――」
「議論するなら別の機会にしてくれ。犯人は分かったんだ。レインシナートの救出に行くぞ」
 セドが言うと、オズワルズはなおも納得できない顔で食い下がろうとしたが、すぐに口をつぐんだ。
「それにしてもバークンデーゲンめ、絶対にぶん殴ってやる!」
 ライは握り拳をつくってそう吠えるが、すでにその拳は目の前の男に叩き込まれた後である。
 レインシナートを連れ去ったのは、やはりバークンデーゲンだった。あの男の趣味の悪さは、魔物集めをすることだけではないらしい。
「まあ、とにかく、バークンデーゲンの屋敷へ行こう」
 目の前の男をまだ殴り足らなさそうに見ているライの肩を掴んで、引きずるようにしてセドは路地を出た。オズワルズもその後をついてくる。
 その足で、三人はバークンデーゲンの屋敷へ向かった。
「前にも来ただろう。あんたらの主人から依頼を受けてる傭兵だ」
 バカみたいに広い屋敷を取り囲む頑丈な壁の切れ目は、正門の一カ所しかない。裏口もないんじゃ不便そうだと、前回訪れた時も思ったが、他人の家のことなのでどうでもいい。
 立派な屋敷に不似合いな来客に、門番の厳つい顔をした男はあからさまに不審者を見る目つきで見返してきたが、それに対抗するように、ライも見返す。
「依頼書もある」
 門番と張り合う相棒は無視して、セドは懐からバークンデーゲンの署名がある依頼書を取り出して、門番に見せた。門番はセドの手から奪い取るようにしてそれを受け取ると、丹念に書面を確認して、受け取った時と同じように乱暴に突き返してきた。
「入れ」
 果てしなく無愛想な声で男は言うと、一人が通れるくらいに門を開けた。
 実は、初めてバークンデーゲンの屋敷を訪れた時にも似たような対応の仕方だった。その時と同じ門番だったら、顔を覚えてくれていたかも知れない。しかし、門番だけで何人いるのかは知らないが、毎回訪れるたびに違う門番に応対され、似たような扱いを受けそうな気がする。
 傭兵相手に愛想よく対応してきたらそれはそれで裏がありそうで逆に警戒するが、こうもあからさまにぞんざいな扱いも、結局は愉快ではないことに違いはなかった。
 追い返されないだけマシだと思いながら、セドは門をくぐり、広大な屋敷へ足を踏み入れた。


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