novelber 02.手紙 和風の鮮やかな装飾の施された金属製の缶には、元は菓子が入っていた。中身をすべておいしく食べた後、缶を捨てるのがもったいなくて、いつか何かに使えないかと取っておいた。 その「いつか」は、中身の菓子を一緒に食べた一人娘が、半ば家出同然で独り立... 2020.07.02 novelber小説
novelber 01.窓辺 その部屋に、窓は一つしかない。ただ、それは大きいので、こぢんまりとした部屋でも十分に開放感がある――はずだ。 窓際の壁に背中を預け、ぼんやりと窓の外に視線を向けている彼の視界の半分ほどは、ベランダだった。そのせいで、窓から見える外の景色は... 2020.07.01 novelber小説
300字SS 火星ライブラリー 彼女の背丈よりうんと高い本棚の下の方はぎっしりでも、上になるほど少なくなる。 「火星に図書館を作りたかったんだ」 彼女が館長と呼んでいるその人は、火星入植団の第一世代。昔は館長が高いところの本を取ってくれたが、今では彼女が館長に代わって取... 2020.04.04 300字SS小説
小説 きみの健やかなる未来を願い、描く 定規で引いたようにまっすぐな道にはゴミ一つ落ちていない。ゴミが落ちていても、すぐさま清掃ロボットが現れてゴミを片付け、捨てた人物を特定して当局に通報する。 街路樹の葉っぱすらほとんど落ちていない。きれいに整備された公園には指定された植物だ... 2020.04.04 小説短編
小説 ハネムーン・サラダ 西暦二〇××年、日本時間九月九日、午後八時三七分。 終業時間から二時間以上経過した室内に人の姿はなく、私がいる一画以外、照明も落とされている。機械の駆動音が低く静かに響いているのみだ。 2019.12.07 小説短編