SF

novelber

02.手紙

和風の鮮やかな装飾の施された金属製の缶には、元は菓子が入っていた。中身をすべておいしく食べた後、缶を捨てるのがもったいなくて、いつか何かに使えないかと取っておいた。  その「いつか」は、中身の菓子を一緒に食べた一人娘が、半ば家出同然で独り立...
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01.窓辺

その部屋に、窓は一つしかない。ただ、それは大きいので、こぢんまりとした部屋でも十分に開放感がある――はずだ。  窓際の壁に背中を預け、ぼんやりと窓の外に視線を向けている彼の視界の半分ほどは、ベランダだった。そのせいで、窓から見える外の景色は...
300字SS

火星ライブラリー

彼女の背丈よりうんと高い本棚の下の方はぎっしりでも、上になるほど少なくなる。 「火星に図書館を作りたかったんだ」  彼女が館長と呼んでいるその人は、火星入植団の第一世代。昔は館長が高いところの本を取ってくれたが、今では彼女が館長に代わって取...
小説

きみの健やかなる未来を願い、描く

定規で引いたようにまっすぐな道にはゴミ一つ落ちていない。ゴミが落ちていても、すぐさま清掃ロボットが現れてゴミを片付け、捨てた人物を特定して当局に通報する。  街路樹の葉っぱすらほとんど落ちていない。きれいに整備された公園には指定された植物だ...
小説

ハネムーン・サラダ

西暦二〇××年、日本時間九月九日、午後八時三七分。  終業時間から二時間以上経過した室内に人の姿はなく、私がいる一画以外、照明も落とされている。機械の駆動音が低く静かに響いているのみだ。