SF

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17.通信士

あの日、月面都市で暮らす人類は、地球に衝突する小惑星を、塵に覆われて灰色の惑星と変わっていく地球を、ただ見ているしかなかった。  地球に接近する小惑星が発見され、それとの衝突が避けようがないと判明した後、月面都市へ避難しようと人々が殺到した...
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16.編み込み

朝はいつでも忙しい。朝食を作り娘を起こしてご飯を食べさせ、保育園に行く支度をする――のだが、すんなり行かない日の方が多い。娘がご飯を食べてくれなかったり、着替えてくれなかったり、靴を履いてくれなかったり、髪型を気に入ってくれなかったり、理由...
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15.七五三

四月には地元を離れ、就職する。今までとはまったく違うであろう新しい生活への期待に、胸が膨らむ。けれど、不安もあった。大学を卒業するまでの二十二年間、地元を離れたことはなかった。一人暮らしも初めてだ。  ずっと実家にいたけど、大学に進学してか...
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14.ポケット

いびつな丸で切り取られた空は真っ黒だった。灰色ですらないので、つまり夜ということだ。  どうやら穴の中にいるらしく、その縁は簡単には届きそうにない上方にあった。穴の内側は古びたコンクリートで、所々はげ落ちて土が露出している。  星も月も望め...
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13.あの病院

なんとなく避ける道、というものがある。その道を通れば職場と自宅を結ぶ最短距離となるが、避けて通ってもさほどの遠回りにはならない。なので、よほど急いでいなければ、その道は選ばなかった。  車が行き交い、歩道の幅も十分にある、三区の中でも大きな...