シリアス

小説

聖女の真実 騎士の約束 後編

「お願い、イグネス。助けて」 彼女は泣いてすがったが、イグネスにはどうすることもできなかった。 この村で生まれた魔術師たちは、幼い頃から自分たちの役割を言い聞かされて育つ。だから、自分にその役割が回ってきたとしても最後には仕方ないと諦め、受...
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聖女の真実 騎士の約束 前編

骨が軋み、皮膚がひきつる。針で刺されるような痛みが全身を苛む。血管が蛇のようにのたうち、その中を嵐のように血が巡る。嵐に耐えきれず、何カ所も内側から破れていた。 飛んできた石の礫が顔に当たった。 嵐は彼の内側だけにあるのではない。周囲も嵐だ...
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あぶくは願う

山が赤く色付く季節で、海は冷たかった。けれど、水の冷たさなど取るに足らない。 豪奢で幾重もある衣は、海に落ちた瞬間から彼女の体にまとわりつき、水を吸ってますます重くなった。陸であっても動きづらい花嫁衣装は、もはや枷でしかない。その上、手足は...
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地上を往く 後編

「東郷。スピードを上げろ」「渡辺さん! 引き返すべきですよ」「事故ったのかもしれない。それに襲撃を受けたとしても、地上を移動する者として見殺しにはできない」 地上が危険なのは、人体に有害な大気のせいだけではない。人間を襲う無人兵器の存在が、...
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地上を往く 前編

ローテーブルに鏡を置いて、その前に座り込んで深清(みきよ)は化粧をしていく。ベッドに恭介(きょうすけ)が腰掛けて服を着ていく様子が、鏡の端に映っていた。「……今日、深清たちも〈一京(いっけい)〉に向かうのか」「うん。出発するのは昼前だから、...