ファンタジー

300字SS

瓶詰めの夜空

幼い頃、意気揚々と遊びに行って、泣いて帰ってくることが時々あった。 「お空を見てごらん」  いつまでも泣いている私に師匠が優しくささやく。満天の星が涙の向こうで輝いていた。 「これを持って。さあ、呪(まじな)いの時間だ」  幼い両手で持たさ...
短編

灯火の行く末

それは、生きる灯火だった。  ありきたりで片付けられるのは不本意ではあるが、私からすれば、道行く人もありきたりの普通の人生を送っているのだろう。  そんなありきたりな、暗闇を這うような人生を歩んできた私にとって、その人はまさに灯火だった。 ...
300字SS

書き初め

年が改まって最初の市は、毎年大賑わいだ。  今年一年の幸せを求めて、呪まじない師の店にも多くの客が訪れる。呪い師がその年初めて書く護符は、特に効果があるとされるのだ。  ゆえに人気の呪い師の店先には、書き初めの護符をもらおうと前の晩から待ち...
小説

続・ぼくのサンタクロース

その小さな島は、海岸の目と鼻の先にあった。島に渡るには舟を使うか、潮が引いたときにだけ現れる道を通るしかない。ただし、島自体が神域であるため、上陸できるのは許された者だけだ。  ただ、見咎める者のいない夜にこっそりと島に渡り、置きみやげをし...
小説

ぼくのサンタクロース

冬になると雪に閉ざされる北の国々と違い、南方の面影が濃いこの地方では、冬であっても氷が張ることさえ稀だ。吐く息が白くけぶるのは朝も早いうちだけのこと。日が、その姿をすべて現せば、たちまち白い息は光の中に溶かされ見えなくなる。師走となり、風が...