ほのぼの

小説

軒下で芽生え、落ちる

天気予報が外れたので、恋をした。  明日は一日中雨、時々止みますが、日射しは届かないでしょう。  キャスターの声を背中で聞きながら、明日天気になあれ、と軒先にぶら下げられたわたし。  わたしを見上げる顔は、期待よりも不安の方が大きい。無理も...
300字SS

書き初め

年が改まって最初の市は、毎年大賑わいだ。  今年一年の幸せを求めて、呪まじない師の店にも多くの客が訪れる。呪い師がその年初めて書く護符は、特に効果があるとされるのだ。  ゆえに人気の呪い師の店先には、書き初めの護符をもらおうと前の晩から待ち...
短編

続・ぼくのサンタクロース

その小さな島は、海岸の目と鼻の先にあった。島に渡るには舟を使うか、潮が引いたときにだけ現れる道を通るしかない。ただし、島自体が神域であるため、上陸できるのは許された者だけだ。  ただ、見咎める者のいない夜にこっそりと島に渡り、置きみやげをし...
小説

ぼくのサンタクロース

冬になると雪に閉ざされる北の国々と違い、南方の面影が濃いこの地方では、冬であっても氷が張ることさえ稀だ。吐く息が白くけぶるのは朝も早いうちだけのこと。日が、その姿をすべて現せば、たちまち白い息は光の中に溶かされ見えなくなる。師走となり、風が...
小説

森のほとりの怒れる人

〈マの森〉に一人で入るな、と大人達が口を酸っぱくして言っているのに、ポラはいつもお構いなしだ。今日は朝から姿を見かけないなと気付いた頃に、全身草まみれで現れる。 「キュラ、お土産だよ」  満面の笑みで、小さく綺麗な花束や、珍しい木の実を差し...