大きな酒瓶やいくつもの小瓶が乱雑に転がり、薄暗い室内には妙に甘ったるい匂いが立ちこめていた。
「これが、お前の救世主の本当の姿さ」
目は虚ろで呂律は回らず、だらしなく涎を流している。
「私に力などない。元よりなかったんだ……」
祭り上げられ期待と重圧に押し潰され、それでも救世主たらんとした女のなれの果てが、そこにあった。
彼女に救われたと思っていた俺も、追い詰めた一人だというのか。
「殺してくれ。もう疲れた……」
剣を抜けば、彼女は首を差し出すようにうなだれる。
歯を食いしばって振り下ろした剣は、しかし酒瓶を叩き割っただけだった。
「――生きてくれ。俺が助けるから」
のしかかるものを、力の限り支えていくから。
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※Twitter300字SS参加作品、第81回お題「救う」
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