影はいつも傍にあった。壁にもたれた背と、机に叩き付けた拳と、大地を踏む足と……影は必ず私と繋がっていた。
夕暮れのグラウンドでボールが私に向かって飛んできた時、私を守ってくれたのは影だった。階段で足を踏み外した時も、信号のない横断歩道を渡っていた時も、守ってくれたのは影だった。
地面に、紙よりも薄っぺらく張り付いていた影が、私が危うい場面で立ち上がり私に覆い被さり難を逃れる。
尋常ではない。
「……もうやめろ、どっかに行っちまえ!」
堪り兼ねてそう言ったあの時から影は消えた。
影のない人生がどういうものか想像できるか? 子供であれば、影踏みができない! と大騒ぎだ。
よく晴れた日、今でも足下を寂しく思っている。
※300字
※Twitter300字SS参加作品、第76回お題「影」
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