あなたと同じ道を歩むことを選べなかった私の代わりに、この二枚貝の片割れを連れて行って下さい。
その片割れを、私も肌身離さず大事にします。
貝を耳に当てて、あなたの声を思い出します。あなたもきっとそうして下さい。
心はいつもあなたのそばに、あなたの心もわたしのそばに。
これから遠く離れていくあなた。二度と会えないであろう私達。
思い出と貝の片割れだけをよすがにする繋がりは、貝の殻よりも脆いでしょう。
このささやかな繋がりが煩わしくなったなら、躊躇わずに砕いて下さい。過去に囚われず、未来へ進むあなたにこそ、私は惹かれたのですから。
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砕けた貝に涙が吸い込まれる。
私の心もまた脆かったのだと、三年前は知らなかった。
※300字
※Twitter300字SS参加「間に合わなかった」作品、第69回お題「選ぶ」
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