04.恋しい

 自分でも部屋をきれいにしている方だと思うが、綺麗好きだからではなく、片付ける手間を少なくしたいからだった。おかげで、急な来客があっても、すぐに部屋に上げられる。
 今回もそうだ。まあ、今回の来客は、今のところ眠り続けているが。
 自分のベッドに寝かせた子供は十五歳ほど。名前も知らない、見ず知らずの少年だ。
 最初に自分が見つけた以上、途中で放り出すのは気が引けたし、こんな子供がいったいどうして地上をたった一人で歩いていたのかも気になるので、秋香が自宅に引き取った。
 見つけて以来、病院でも、秋香の家に連れ帰る途中でも、少年は一度も目を覚まさなかった。よほど疲れているのだろう。
 秋香はよく見知った自分の部屋を見回した。普段から気を付けているおかげで、物音を立てて片付けをしなければならない心配は無用だ。とはいえ、まったく片付けをしないわけにもいかないだろう。
 クッションや座布団の位置を整え、机の上に投げ出していた書類やチラシを整理する。
 この際だからついでに片付けようと、引き出しを開けた。いつか必要になるかもと突っ込んだまま結局使っていない小物や、どこかでもらったノベルティなどが出てくる。
 いつの間にかため込んでしまっていたな、と苦笑していたら、その更に奥から、懐かしい物が出てきた。
 まだ取っていたのか、と自分に驚く。別れた恋人に、かつてもらった手紙。引き出しの奥底に仕舞っていて、今まで存在を忘れていたのに、内容は何となく覚えていた。今となっては、読む方も恥ずかしくなるような内容だ。
 書いた本人は、少年を運ぶのを手伝ってもらったので、さっきまでこの部屋にいた。昔の手紙がここに残っていたなど、思いもしなかっただろう。見たらおそらく恥ずかしくて彼も悶絶するだろうから、知らない方がいいだろうが。
 この手紙をもらった頃、読み返していた頃は、恋しいという気持ちを人並みに持っていたな、と思い出す。思い出すが、当然、あの頃の感情は甦らない。
 こんな手紙が、見ず知らずの少年の目に触れては大変だ。
 秋香はいらない封筒の中に手紙を入れてきちんと封をし、ゴミ箱の奥底に入れた。

〈了〉

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