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10.私は信号

なんとかベッドから出ることなくアラームを止めようと手を伸ばすが、届かない。止めるのを諦めようにも、無理矢理叩き起こされた頭に甲高い音はつらい。結果、這うようにベッドを出て、そのまま目覚まし時計をわし掴みする。  ようやく静寂を取り戻したので...
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09.ポツンと

きっかけははっきりと覚えている。  期末試験初日を乗り切り、翌日に備えるため、友人とのお喋りも寄り道もせず、塾に向かっていたときだった。  学校から塾に直接行くには、五階分の抜きぬけになっている、円形の吹き抜け広場(そのまんまのネーミングだ...
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08.天狼星

それはもうこっぴどく怒られた。  割と温厚な歳の離れたあの従兄弟が、あんなに怒ったのを見たのは初めてだ。両親にだってあんなに怒られたことはない。  ただ、それだけのことをしてしまったのだと、わかっていた。もちろん、反省もした。死ぬほどした。...
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07.朗読

ほとんどの子供が、〈青滝〉の外――地上に出るのが初めてだった。  地球は塵に覆われていて、灰色の空が広がっている。それは、小さな子供でもいつの間にか常識として知っている。  だが、知っているだけでは、実感はわかない。  ただでさえ泣きながら...
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06.当日券

有休を取って気分転換でもしたらどうか、と言われた。疲れているとは思わないし、自分ではいつも通りに、程良い緊張感を持って勤務しているつもりだが、同僚や上司によると、そうでもないらしい。  残業になることはあるが、過密に働いているわけではない。...