天体観測

小説

地上を往く 前編

ローテーブルに鏡を置いて、その前に座り込んで深清(みきよ)は化粧をしていく。ベッドに恭介(きょうすけ)が腰掛けて服を着ていく様子が、鏡の端に映っていた。 「……今日、深清たちも〈一京(いっけい)〉に向かうのか」 「うん。出発するのは昼前だか...
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糸島くんと山田くんとにぎやかな仲間たち

壁は淡い緑色で、床は濃い緑。天井は壁と同じ色で、無機質な白いライトが等間隔に緑の廊下を照らしている。廊下の行き止まりは扉になっていて、「関係者以外使用禁止」と赤い文字で書かれている。緑の背景に赤い文字は、目に痛い。この扉を見るたびにいつもそ...
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あるいはそれよりも鮮やかな 後編

丹野の真っ赤な防護服に見慣れ、真新しかった堀川の作業着にも、いつの間にか、こすり洗いしても落ちない汚れが着くようになっていた。丹野の防護服のLEDライトが点灯するとろこはお目にかかったことがなかったが、特に気にしなかった。慣れとは恐ろしい。...
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あるいはそれよりも鮮やかな 前編

灰色の雲が空を覆い尽くし、昼間だというのに太陽がどこにあるのか分からない。もっとも、太陽を直に拝んだことのある人類は、もうこの世のどこにもいない。  灰色の雲と厚い塵の層の向こうにあるおぼろげな姿を見られたら、運がいい。