小説 軒下で芽生え、落ちる 天気予報が外れたので、恋をした。 明日は一日中雨、時々止みますが、日射しは届かないでしょう。 キャスターの声を背中で聞きながら、明日天気になあれ、と軒先にぶら下げられたわたし。 わたしを見上げる顔は、期待よりも不安の方が大きい。無理も... 2023.05.27 小説短編
短編 忘れ得ぬもの、まだ見ぬ世界 その感触を、生涯忘れることはないだろう。けれど――。 「火星行きが目前で、ナーバスになってるだけじゃない?」 少し呆れた顔の同僚達に見送られ、地球行きの船に乗る。きっと仲間の言う通りだ。月生まれなのに、地球の青さに懐かしさを感じるのは、も... 2023.02.12 短編
短編 灯火の行く末 それは、生きる灯火だった。 ありきたりで片付けられるのは不本意ではあるが、私からすれば、道行く人もありきたりの普通の人生を送っているのだろう。 そんなありきたりな、暗闇を這うような人生を歩んできた私にとって、その人はまさに灯火だった。 ... 2023.02.12 短編
小説 続・ぼくのサンタクロース その小さな島は、海岸の目と鼻の先にあった。島に渡るには舟を使うか、潮が引いたときにだけ現れる道を通るしかない。ただし、島自体が神域であるため、上陸できるのは許された者だけだ。 ただ、見咎める者のいない夜にこっそりと島に渡り、置きみやげをし... 2022.12.24 小説短編
小説 ぼくのサンタクロース 冬になると雪に閉ざされる北の国々と違い、南方の面影が濃いこの地方では、冬であっても氷が張ることさえ稀だ。吐く息が白くけぶるのは朝も早いうちだけのこと。日が、その姿をすべて現せば、たちまち白い息は光の中に溶かされ見えなくなる。師走となり、風が... 2022.12.24 小説短編