短編

小説

軒下で芽生え、落ちる

天気予報が外れたので、恋をした。  明日は一日中雨、時々止みますが、日射しは届かないでしょう。  キャスターの声を背中で聞きながら、明日天気になあれ、と軒先にぶら下げられたわたし。  わたしを見上げる顔は、期待よりも不安の方が大きい。無理も...
短編

忘れ得ぬもの、まだ見ぬ世界

その感触を、生涯忘れることはないだろう。けれど――。 「火星行きが目前で、ナーバスになってるだけじゃない?」  少し呆れた顔の同僚達に見送られ、地球行きの船に乗る。きっと仲間の言う通りだ。月生まれなのに、地球の青さに懐かしさを感じるのは、も...
短編

灯火の行く末

それは、生きる灯火だった。  ありきたりで片付けられるのは不本意ではあるが、私からすれば、道行く人もありきたりの普通の人生を送っているのだろう。  そんなありきたりな、暗闇を這うような人生を歩んできた私にとって、その人はまさに灯火だった。 ...
小説

続・ぼくのサンタクロース

その小さな島は、海岸の目と鼻の先にあった。島に渡るには舟を使うか、潮が引いたときにだけ現れる道を通るしかない。ただし、島自体が神域であるため、上陸できるのは許された者だけだ。  ただ、見咎める者のいない夜にこっそりと島に渡り、置きみやげをし...
小説

ぼくのサンタクロース

冬になると雪に閉ざされる北の国々と違い、南方の面影が濃いこの地方では、冬であっても氷が張ることさえ稀だ。吐く息が白くけぶるのは朝も早いうちだけのこと。日が、その姿をすべて現せば、たちまち白い息は光の中に溶かされ見えなくなる。師走となり、風が...