novelber 29.冬の足音 「いやぁ、和樹の家でゆっくりするの、すっごい久しぶりだな」 お茶の入ったマグカップを差し出すと、武利がしみじみと言った。 受験勉強に集中したい言うので、武利とは晩秋から会っていなかった。最後に会ったのは、地上では冬の足音が近付いていた... 2020.07.29 novelber小説
novelber 28.ペチカ 部屋は閉め切られ、壁を背にして四角いストーブを置いていた。 記録映像や写真、絵画でしか見たことがなく、もちろん使ったこともないけれど、目の前にあるそれは赤々とした光と熱を放射して、その前の床に座る二人を暖めている――ように感じる。 「... 2020.07.28 novelber小説
novelber 27.銀の実 「お疲れさまです。お先に失礼します」 個人端末の電源を落として席を立ったところで、二つ隣の席で作業報告書を書いていた蒼平に呼び止められた。 「今度の日曜、非番だよな?」 「はい」 「何か予定はあるか? なければ、うちに来てほしいんだ」 ... 2020.07.27 novelber小説
novelber 26.にじむ 「今日の模試、全然だめ。自信ない」 「あたしもだよ~。あと二ヶ月で入試なのに、やばすぎ」 「とりあえず模試終わったし、気分転換にカフェに寄っていかない?」 「いいねえ。あたし、雪パフェ食べたーい」 「ごめん、わたし、パス。今日は帰らないと... 2020.07.26 novelber小説
novelber 25.初雪 冬が近くなるにつれ、灰色の空はどんどん低くなる気がする。重苦しくて息苦しくて、その上寒くて、憂鬱な気分になる。 こんな季節を、あの人はどういう気分で乗り越えたのだろう。 堀川は自分の体を見下ろした。真っ赤な防護服には、極薄型のライト... 2020.07.25 novelber小説