小説

300字SS

見えざる手

朝日が眩しい海岸を歩いていた時に、出会った。足がなくなった大きなクラゲが打ち上げられていると思ったが、違った。  迷子の宇宙人だった。  故郷へ帰るロケット作りを手伝う羽目になったのだが、色々な研究機関やマスコミ、動画配信者等に追いかけ回さ...
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まがいの花

師匠は魔法で生きものを本物そっくりに具現化できる。滅びた動植物や空想の生きるものまで、何でも。  師匠が手漉きした紙に師匠が調合したインクで、複雑な呪文と図形を繋げていく。 この日生み出したのは、遠い東国で春に咲くという花だった。木に咲くの...
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育ったものの名は「 」

私をのぞき込んだ時、彼は目映い太陽を背に負っていて、その表情はよく分からなかった。分かったとしても、何も感じなかっただろう。その時の私は、捨てられたボロボロの人形だったから。  そんな私に、彼は一つずつ、感情を与えてくれた。  誰かを助けよ...
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出世街道まっしぐら

部屋の片隅には赤ん坊くらいの大きさの人形がある。薄汚れて右目はなく、脇から綿が出ている。ごみ捨て場で拾ってきた人形だ。 「手伝うんじゃなかった」 「あんなに親切にしたのに」 「皆のためになるからやったんだ」  地方出で家柄もない平民が出世す...
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鎌は水に飢え

暑いはずなのに、空を見上げると寒々しい気持ちになった。暑いせいなのか冷や汗なのか分からない額の汗を拭う。  急がなければ。  今年は極端に雨が少ない。去年まで豊作続きで蓄えはまだあるが、みな既に焦っている。祈り人である姉の元を、村長達が頻繁...