300字SS 川の主 夏休みは山奥 に住む祖父母に預けられ、飼い犬を連れてよく川へ散歩に行っていた。 ある時、川の冷たい水を楽しんでいた犬が急に何かを追いかけ始めたので見てみると、一匹の黒い鯉が泳いでいた。頭に白く大きな斑点がある。犬を窘めると、鯉は川の深い... 2020.08.01 300字SS小説
novelber 30.真っ白い 事務所という名の狭い室内にあるのは、二台ずつ向かい合わせに並ぶ事務机と、壁際に寄せられた三人掛けの古ぼけたソファ、その前にあるローテーブル、雑多のものが詰まっている背の高いキャビネットくらいだ。 窓もない部屋で、壁の一面はキャビネット... 2020.07.30 novelber小説
novelber 29.冬の足音 「いやぁ、和樹の家でゆっくりするの、すっごい久しぶりだな」 お茶の入ったマグカップを差し出すと、武利がしみじみと言った。 受験勉強に集中したい言うので、武利とは晩秋から会っていなかった。最後に会ったのは、地上では冬の足音が近付いていた... 2020.07.29 novelber小説
novelber 28.ペチカ 部屋は閉め切られ、壁を背にして四角いストーブを置いていた。 記録映像や写真、絵画でしか見たことがなく、もちろん使ったこともないけれど、目の前にあるそれは赤々とした光と熱を放射して、その前の床に座る二人を暖めている――ように感じる。 「... 2020.07.28 novelber小説
novelber 27.銀の実 「お疲れさまです。お先に失礼します」 個人端末の電源を落として席を立ったところで、二つ隣の席で作業報告書を書いていた蒼平に呼び止められた。 「今度の日曜、非番だよな?」 「はい」 「何か予定はあるか? なければ、うちに来てほしいんだ」 ... 2020.07.27 novelber小説